2021年 02月 27日
ツチノハナシ |
先日、ご縁をいただいて「鉱山」を見学に行ってきました。
瀬戸で鉱山といえば、そう、陶磁器の原料となる粘土を掘っているところです。
瀬戸で陶磁器に関わる仕事をしていて、いつも近くを通っているのですが、
なかなか接点がなく、実際にどんなことをやっているのかはよくわかっていませんでした。
鉱山の方に実際にお話を聞いて、陶磁器の文化を次の世代に伝えていくために、
とても大切な話なので陶磁器業界の方だけでなく、できるだけたくさんの方と共有できたらと思います。
・全国の陶磁器産地を支えている
この鉱山で掘っていたのは”蛙目粘土(がいろめねんど)”という粘土です。
瀬戸で採れる蛙目粘土は、白くて程よい粘り気があるのが特徴で、
この土があったからこそ瀬戸が長年、陶磁器の産地として栄えてきたと言っても過言ではないでしょう。
実は、この蛙目粘土、掘った分が全て瀬戸焼に使われているかと言うとそうではありません。
3:7
瀬戸で使われるのが 3、他県に送られるのが 7 だそうです。
遠くは九州、沖縄の陶産地でも使われているのだとか。
程よい粘り気があるので、いろんな土にブレンドすることで加工がしやすくなるため、全国の陶産地でなくてはならない存在なのです。
・世界のものづくりを支えている
陶磁器といっても日用品だけではありません。
ファインセラミックすの分野でもなくてはならない存在なのです。
この分野はあまり詳しくないので多くは語りませんが、
日本を代表するあの大企業の製品や現代の生活になくてはならない誰もが持っているあのアイテムにも使われているそうです。
・枯渇問題
しかし現在、この蛙目粘土、あと十数年で採れなくなるという危機に瀕しています。
上にも書いたように、この土がなくなると瀬戸だけでなく、全国の陶産地がやきものを作れなくなるという恐れがあります。
そしてやきものだけでなく、いろいろな産業に影響が及ぶことになると思います。
実は近年のボーリング調査の結果、市内の別の場所で蛙目粘土が採れることがわかっています。
が、新たな場所を掘るためには何十億円という費用がかかるそうです。
環境問題など地域の住民の理解も必要ですね。
もう個人や有志が頑張ってなんとかなるレベルの話じゃないです。
新たな場所を掘ることで、あと100年はいけるんじゃないかということでしたが、
それでもあと100年。
何千万年かけて作られた粘土があと100年!
しかも新しい場所を掘れたとして!
結構衝撃的です。
自分がやってるうちはなんとかなると思います。
だけど、子や孫、ひ孫の世代になった時に、瀬戸にやきものの文化を残していけるのか?
日本にやきものの文化が残せていけるのか?
当たり前のように日常の食卓で使われる陶磁器がなくなってしまう?
瀬戸だけでなく、全国の陶産地、行政も含め業界の枠を越えて考えていかなければいけない問題だと思います。
ちなみに、掘る量を減らせばいいのではという考え方もできるかもしれませんが、
今まで一般家庭で比較的安価に陶磁器を使うことができたのは、
たくさん土を掘るスケールメリットで原価を抑えられたという一面もあります。
掘る量を減らすということは、直接的に商品の価格に反映されていくことが予想できます。
極端な話、土はどこか別の国から買ってもできるかもしれませんが、
そうすると瀬戸でやきものを作る意味あるの?
(世界的に枯渇しているという話も聞きます。。。)
器は陶磁器じゃなくても生活には困らないかもしれません。
でも、ほんとにそれでいいのか?
今回の見学で、まだまだ知らないやきものの世界があることを知り、
たくさんのこと(特にそれほど遠くない未来のこと)を考えるきっかけになりました。
・今できること
やきものは土を焼成して”焼き物”になった時点で、
いくら埋め立てても”土”に還ることはありません。
(だから縄文時代の焼き物が出土したりするんですね)
そんなに大きな力は動かせませんが、
まずは一事業者の小さな力でできることから。
限られた資源を無駄にしないためにも、
作る側の立場としても必要とされるものを必要な数だけ、できる限り丁寧に作り、
丁寧に使ってもらえるよう伝え、価値を上げていくことなのかなって思います。
瀬戸は全国的にも珍しく、市街地中心部のすぐ近くに鉱山があります。
基本的に見学はできませんが(理由はよくわかりませんが)
歩いて鉱山の前を通ったり、高いところにから鉱山を遠くに見ることはできます。
もし瀬戸に来る機会がありましたら、近くを通って「瀬戸の土」を感じてみてください。
そして、この投稿をきっかけに使い手、売り手、作り手それぞれに考えるきっかけになれば嬉しいです。
by mmyoshihashi
| 2021-02-27 16:36
| 陶磁器業界